苦雪のブログ

本やゲーム・映画についての感想を備忘録代わりに時折書きます。基本敬称略。

『るろうに剣心 最終章 The Final』

るろうに剣心 最終章 The Final』

 

 

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C)和月伸宏集英社 (C)2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

 

 

 実写版『るろうに剣心』の四作目。原作の人誅編にあたる。るろ剣の実写は全体的に出来が良く、今回も期待しつつ見に行ったが、概ね満足行く内容だった。

 

 映画としてまとめる都合からか、原作にあった話(例えば原作初見時驚くことに成る薫の○○とか落人村)はいくつか削られていたが、個人的には人誅編を手際よくまとめていたと思う。赤べこへの砲撃とか中盤以降の東京全体を巻き込む縁一派の行いは、映像で観ると相当な衝撃だった。序盤の警察署長宅襲撃など、相当陰惨である。少年漫画だった原作も、中々にエグいシーンはあったが、実写で描写されると凄まじい。砲撃で街が吹き飛ぶシーン、ガトリングで屋根瓦が吹き飛ぶシーン、建物に押しつぶされる人、冬の東京を、火が覆っていく様。映像美という点でも、屈指の出来だと思う。

 敵役の縁もよく再現できていた。冒頭の列車で喋った瞬間は、アニメ版の佐々木望ボイスか?と錯覚するほどだったし、アクション・演技ともに縁のイメージに沿っていた。特に、漫画だとある種和らげられていた縁の狂気と復讐心が、実写ではこれ以上無いほど鮮烈だった。普段は冷静そうだが、特定の対象にはとことん暴力的になる縁の姿には満点を与えたくなるほど。

 他の評価点としては、6月公開予定の『The Begining』からもってきたと思われる、巴関連。剣心と巴の暮らしぶりや最後、剣心が巴を斬るところなど、OVAの『追憶編』を彷彿とさせるシーンばかりで、思わず涙腺が刺激された(剣心が大根を手に取るところや巴を後ろから抱きしめるシーンは、もろ『追憶編』である)。

 終盤、縁との決戦に向かう所も文句なし。一人で戦う剣心の元に、操・斎藤・左之助たちが駆けつけて、最後はメインテーマをバックに宗次郎と共闘はとにかく燃えた。

 剣心と縁戦は、原作にあった四星戦などを一切省き、ただただ剣心対縁に特化していた。殺陣は実写版故文句なし。それ以上に、決着の付け方がこの上なく満足行くものだった。実写版では、原作の決め手である龍鳴閃で縁の感覚を破壊するという原作で使われた方法ではなく、純粋な勝負の結果として決着がついていた。最後刀を折られた縁が巴の短刀を手に剣心を刺し、そこで初めて剣心と縁と正対し、互いの顔を見つめ合う。そうして剣心が縁に「すまなかった」という流れに改変されている。

 ここを見た時、心中で「原作を越えた」と感じた。もちろん、原作が悪いと言いたいわけではない。ただ、剣心と縁の決着のつけ方という点では、原作やOVAの『星霜編』での決着のつけ方よりも、好ましいと感じた。

 他媒体と比べて、実写では剣心と縁が相対するという点を意識していたと思う。橋の上で上から縁が剣心を見下ろし、降りて剣心の横を通り過ぎるシーンが中盤にあった。ここでは剣心と縁は正対することはない。その二人が戦いの果てに、はじめて互いの顔を見ることになる。剣心が縁と面と向かって、己の決意と覚悟を語り、巴の死に対して謝罪をする。私が見たかった場面が描かれていた。

 剣心は、縁に対して言う。巴の死に対する悲しみも。自らを恨む怨嗟も。全て、正しいと。しかし、無関係の人を巻き込んでいる今の縁の姿だけは絶対に間違っている。何度も死ぬことによる贖罪を考え、それでも違う道を求め続けた剣心が、縁と向き合って、「すまなかった」と言う。これ以上のものはない。

 この映画、基本的に雪が降っている。追憶編を彷彿とさせる効果もあるのだろうが、髪に雪がつもり、血やススで汚れているところなど、とにかく細かい。剣心と縁の戦い中、四阿が倒壊するシーンなど演出として度肝を抜かれる。

 だが、やはり剣心と縁が向き合うあのシーンが、一番だと思う。復讐する側とされる側が、刺して刺される段階に至って、ようやく初めて互いの顔、互いの目が揃う。やはりこのシーンだ。その後、縁が薫を庇ったとき、剣心に礼を言われ、「本当に守りたかったもの」という言葉が零れた後、号泣する所も、獄中で縁が巴の思いを知って泣き崩れる所も、全ていい。巴の剣心に対するこれ以上ない程の心が、”あの人はこれからも多くの血を流すことになるが、きっとその先多くの人を救うことができる、そんな人を守りたい”という言葉で語られ、剣心の頬に十字傷をつけるシーンが再度流れる――。

 これらの部分だけで、手放しで礼賛したいレベルなのだが、少々いただけない部分もある。

 まずは、原作キャラの扱い。最初に、弥彦の扱いは、実写版という都合上致し方ない面はあると思うので、しょうがないと思う。

 人誅編の敵役たる原作で言う”6人の同士”(とはいえ、実写版では6人ではないが)だが、正直彼らはあんまり気にならない。実写は、1作目で外印が出てきた時点で完全再現は望めないし、鯨波がしっかり描かれただけで十分ではないだろうか。

 ただメインキャラクターとの絡みで言えば不満あり。まず蒼紫が途中でフェードアウトするのは、もう役者の問題で仕方ない。結果的に、八ツ目を倒す操が尋常じゃなく強くなっているが、まぁ別に許容範囲だろう。

 ただこの映画、左之助の扱いが酷い。最初こそともかく、中盤で縁にやられるわ、最後は剣心の応援にかけつけるも戦闘はなし。実写版はとにかく左之助の扱いが悪い。半ば賑やかし役のギャグキャラみたくなっているのはよろしくない。原作では、最新作の北海道編においてもしっかりシリアスな面を見せてくれるキャラクターなだけで、実写版の左之助の扱いは酷い。ちゃんと人誅編の敵役の誰かと戦わせるべきであった。

 後は、十本刀の張が原作同様、警視庁の密偵となっていたが、途中で縁と戦闘して殺害されるというのはどうかと思った(縁が神谷道場に持ってきた死体は、たぶん張のだろう)。

 後は騒動の終結後、斎藤・操・蒼紫らがどうなったのかとか、出番があったのに火傷を負ったままの燕とか、警察署長とか、その辺の人々が描かれていないのも不満(そういえば御庭番衆の翁が死んだ扱いになってたような)。

 

 原作人誅編のまとめ方、人誅の様相と被害、相変わらずの殺陣描写、剣心Vs縁とその結末はこの上なく高い評価を与えられるものの、一部原作キャラ(とくに左之助)の扱いには不満が残る作品であった。そのままなら100点満点の所、90点に……といった感じ。